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YAMAloco vol.4 Winter 2007.冬山ガイドパウダーカンパニー
Date:2007.01.02
Category: メディア
以前に雑誌に掲載された記事をweb上にアップしています。
2007年の冬に発行されたフリーペーパー「YAMAloco vol.4」
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情熱
パウダーカンパニーガイドの仕事
雪を追いかけて辿り肝いた地で、流れる情熱を「滑る」ことに捧げる者たち。
自身が滑ることだけに留まらず、それを伝え共有することを歓びとし、
フィールドを愛する。そんな彼らの情熱を伝えたい。
text by YAMAloco,Daisuke Hirano
photograph by Daisuke Hirano(P.21,24-25)、Powder company guide(P22-23)
白い静寂の世界。 眼下に広 がる無垢の斜面と対峙し、こ れから滑るラインをイメージする。 深く吸い込んだ山の空気を吐き出しながらゆっくりと斜面と重力に身をゆだねる ・・・。巻き上がる雪煙。 解き放たれる精神。 桃惚。 刻まれるトラック。日常にはまるでない、スノーボーダー、スキーヤーにとっての夢の世界。そんな世界を案内するのがパウダーカンパニーガイドの仕事だ。
パウダーカンパニーガイド としてこの2007年シーズンに活動しているガイドメンバーは全部で5名。世界の急斜面を相手に数々の結果を残し、その気骨のある滑りと温厚な人柄で知られるプロスノーボーダー高久智基(以下、智基)を筆頭に岡田修、奥隆太郎、山田誠、ナチュラルドリフトガイドとしても活動する遠藤明郎。出身地はそれぞれ違うが皆~、スノーボーダー として雪を追い求めてニセコを訪れ、その後住み着いた。共に滑りながら、彼らのある思いが重なりこの仕事を始める事となった。
「生まれたきっかけはクルージングから」
朝から昼過ぎまで滑るローカルルーティーン
前日の晩の天候と風向きをチ ェック。特にニセコでは風の情報が重要視される。 そして当日の状態を経験から予測。ゲレンデ内の時間ごとの人の流れ。 ローカル同士の情報交換。こうしてシーズン中ほとんど毎日滑るローカル達は良いコンディションの斜面を嗅ぎ当て、その日その時最高の場所で滑る。一方他所から来たスノーボーダー、スキーヤー達。 トレイルマップを手が かりにゲレンデに出たものの気が付けばいつどこに行ってもトラックだらけコプだらけ。 仕方なくその荒れた斜面で我慢する。多少誇張した表現ではあるがこれに近い状況。そんな状況に対して、自分達ローカルが味わっているニセコの雪山の良さを他所から来た愛好家達にも味わってもらいたい。そしてお客さんと時間を共にして技術面も伝えたい。こんな思いから、ローカルだからこそ見えてくる、ゲレンデを案内し共に滑る仕事、『ゲ レンデクルージング』が生ま れた。
「バ ツクカントリーに行かなくても楽しいラインはたくさんある」。ゲレンデ内を案内し、更に希望すればスノーボードの技術も教えるという内容は彼らが始めた当時はあまりなかったジャンル。現在ではニセコでも何社か似たような事を行っている。「始めた 頃なんかは特に、参加してくれるお客さんのほとんどが中・上級者で、その人達に敢えて 、インバウンダリーで滑りの技術を伝える。自分らも毎日バ ツクカントリーに行ってる訳じゃなく普段やっている事、リフトに乗って楽しく滑って いる中で、 ニセコの現状や問題点を一緒に体感するという事が一番スムーズでありのままかなと思って」と智基。また今後について「スキー場に当たり前の様にスクールが開校されているのと同じ様に、ゲレンデクルージングガイドが一般化していけばいいなと思っています」と話す。
伝える
バ ウダーカ ンパ ニ ーガイド
高久 智基
1972年生まれ 神奈川県藤沢市出身 二セコ町在住
岡田修
1977年生まれ 兵庫県出身 二セコ町在住
奥 隆太郎
1976年生まれ 神奈川県鎌倉市出身 二セコ町在住
山田誠
1973年生まれ 神奈川県鎌倉市出身 二セコ町在住
遠藤 明郎
1963年生まれ 北海道勇払郡穂別町出身 倶知安町在住
が提供するメニ ューは、まずそのきっかけとなった『ゲレンデクルージング』、主に深雪や自然地形、雪山でのスノーボード技術を伝える。『クリニック』、スキー場以外での雪山滑走案内いわゆる「バ ックカントリー』のガイドの3本柱。お客さんは全国から集まり、今までの最南端は奄美大島から。 年齢層も様々。 かつて登山を含め自然の山を楽しむ遊びは、 おじさん、おばさん世代のものという時代もあったが、パウダーカンパ ニーの面々がそれに開眼したように、 若い世代のスノーボーダー達もこの世界にはまり、バ ウダーカンパ ニーの門を叩く。そしてガイド達に触れ本物を知ることで更に深みにはまっていく。
パウダーカンパ ニーガイドが伝える事は滑る技術や楽しさだけに留まらず、雪山で「怪我をせず生きて帰ってくる事」すなわち安全面の教えにも及ぶ。先の見通しの悪いノールの手前では滑走スピードを押さえて状況によってはしっかり止まる、とい った滑走中の危険予測。雪崩が起こった時の危険回避の方法として、エスケープルートを常に確認しておく事。などをゲレンデ内で行うクリニックやバ ックカントリーに出た時に教える。自分達の経験や知識を伝えることで、多くの人が安全に長く楽しみ続けられるよう手助けする。
パウダーを滑る奴
ここ数年のニセコのバウダ ーをめぐる展開について智基 が話してくれた「昔、スキー場は全部ロープで区切られていました。ロープをくぐってパウダーを滑っていた時代があって、スキー場からは「パウダーを滑る奴」みたいに見られる時代が何年も続きました。新谷さんの雪崩情報など永年続けてきた事によってニセコローカルルー ルが生まれ、パウダーを滑る人達の人格が認められて、 代わりに自己責任と言う言葉が入ってきました。ルールが生まれた事によって、これから出てくる問題点に対しても解 決の方法を見いだせる場が出来たという事が、僕は素晴らしいと思っています」今はゲートから管理区域の外に出れば自己責任で誰でもパウダーを楽しめる。しかし「滑る側もレベルアップしていかないと、本当の意味での自己責任とルールを良くしていく事にはつながらない」と厳しい。また自分達ガイドにはルールを分かりやすく伝える責任もあると言う。「だからなるべくガイドしている 中でも『イエーイ』って言う 瞬間と一緒に、雪や地形の話も含めて (ルールも) 伝えていくべきだと思っています。現在、冬期のニセコアンヌプリで完全立ち入打禁止区域 となっているのは『春の滝』、『湯の沢』、『水野の沢』と呼 ばれるエリア。この中でもっとも急な斜面(崖?)が春の滝。この斜面について「リフ トであれだけ近くで見ることができ、インスペクションできる春の滝は、スノーボード、スキーの技術的進歩っていう部分に関して非常に大きいと思うし、選手の側から見ると宝だと思っています」と話す。そして将来、今の自己責任の極論として、これらの区域の開放、すなわち自己責任により滑走可能となる事が望ましいと考えている。しかし「残念ながら、今はまだその時期
ではない」とも言う。スキ ー場が遊剛地の様ではなく、バ ックカントリーの危険が伴うという意識の社会にならないと難しい部分が多いと思います」。この肺に対する理解 を更に広め、長いスパンで意識を育てる必要がある、と。これからは僕ら世代の子供達に対しても、リスクを回避しながら安全に楽しく滑る楽しさを教えられたらいいなと思つています」
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午後のニセコモイワ山麓のパウダーカンパ ニーオフィスには、それぞれガイドの仕事やプライベートで滑り終えた後、今の滑りを笑顔で話すガイド達の姿がある。自分の好きなスノーボードの世界で仕事をし、またその喜びを共有する楽しさが伝わってくる。また、滑りながら生活の糧を得られる部分はもちろん魅力のひとつなのだろうが、技術や知識を伝えることが自分たちの滑り手としてのレベルア ップに繋がると彼らは考えて いる。そして自分達の遊ぶフィールドであるニセコのスキー場や山を更に良いものにしていこうと努める。
代表の智基が今改めて感じる雪の魅力について語ってくれた。
「斜面がどんなに荒らされてギタギタになっても、年に何回か大きな低気圧が来て、ぱ っと次の日の朝になると、あれだけギタギタで終わったねって言っていたのが、また原始の世界に戻る。僕らがニセコに来るずっと昔から、当たり前の様にあったあの世界が今でも味わえる。一本かもしれない。でも一本でも味わえる。そこが雪山のすばらしいところであり、僕にとっての拠り所ですかね。ひらふがどんなに開発され、パウダーが 少なくなってきても、いい時はいいっしょ?」
了
(注1) ローカル=地元在住のスノーボーダ ー、スキーヤー
ルーティーン=順序で決まった滑る場所。ここを滑った後はあの斜面、またその後はあそこを滑ろうといった具合。
(注2) インバウンダリー=スキー場内
(注3) ノール=斜面途中の緩い斜度から急な斜度への変わり目、滑り降りる際、変わり目のすぐ下が死角となる。
(注4) ニセコローカルルール=滑走による事故が起こらぬよう、ニセコエリアの雪崩頻出エリアを示し、 立ち入り禁止を呼びかける活動。
{注5) インスペクション=滑走前の下見、調査。この場合、目視による状態の確認。
堀材協力 バウダーカンバニーガイド
北海道虻田郡ニセコ町字ニセコ447-9
TEL 0136-54-2820
フロントページ--------------------------------------------------------------------------------- special thanks:林田達夫、平野大輔(SEED BAGEL)
Author: パウダーカンパニー