高久智基 BLOG

13.11.22-24 立山 真砂岳での雪崩死亡事故の前後に感じたこと 高久智基

Date:2013.11.27 
Category:

平成25年11月23日に真砂岳の山頂付近から発生した雪崩で尊い人命が失われました。
お亡くなりになられた7名の方々のご冥福をお祈り致します。

 

 

11/22〜24の日程で所属するTHE NORTH FACEのイベントである「Backcountry Meeting in TATEYAMA」へ行って参りました。
普段でしたらシーズン開始の報告なのですが、滞在中に起こりました雪崩について感じたことを記しておこうと思います。


一般的に伝わる「雪崩」とは!?

天気予報などメディアで伝えられる雪崩は「春に起こる」という認識が強い様です。
春に起こる雪崩の多くは「全層雪崩」といって、シーズンを通して積雪した雪が融けてゆく過程で地表付近まで水分が浸透し、積雪全体が水に近い状態になり雪崩となって下流へ向けて発生するもの。

それに対し、直前ないしは最近通過した低気圧の影響に寄って発生する雪崩の多くは「表層雪崩」といって、割と積雪表面に近い深度で起こります。
「表層雪崩」は、雪質の変わった部分を滑り面としたり、大きな低気圧が居座って強風が継続した時、風下側の急に地形が落ち込む様な斜面へ密度の高い雪を堆積させ、表面を雪板化させることで、その面にプレッシャーが加わった時にその力を遠くまで伝播させることで大規模な雪崩となる危険性が高まります。
また表層雪崩は一度に多くの雪が流れ出す特性から速度も速く、地形によって流れた雪は集まることでさらに速度を増し、遠くまで流れる特性があります。
一旦流れ出した雪の動きは、水の流れの如く低い方へと流れます。

この度、真砂岳で発生した雪崩は厳冬期に多発する「*1 表層雪崩」です。

 

IMG_1573.JPG
2013.11.22 黒部ダム 1,500m

IMG_1589.JPG
2013.11.22 室堂ターミナル 2,450m

 

今回私は、11/21に北海道を出発し、22日の早朝に長野県側より室堂を目指しました。
入山日の天候は曇り、トロリーバスやケーブルカーを乗り継ぎ標高が上がるに連れ、視界は悪くなる状況です。
出発以前より降雪の情報は各方面より伺っていました。
しかし天候は回復傾向にあり、天気図からも滞在中に晴れるであろう事は予想が出来ました。

 

私達のグループは、一般の参加者16名、ツアーを催行する会社の山岳ガイド2名、契約アスリート6名(内登山及び山岳ガイド有資格者2名)、カメラマン1名、社員2名の総勢27名。
レベルや経験の差もある大規模なグループ。

たとえ地形や環境を深く理解しているニセコにおいてでも、その日の際立った斜面へアタック出来るパーティーとは言いがたいチーム構成ではありました。

 

雲の中で山は見えずとも、長期間続いた吹雪からも不安定な雪質は想像が出来たので、夕食の前後に山岳ガイド、アスリートと共に、明日ないしは明後日に晴れてしまった場合の行動パターンを話し決定。

大きな期待と不安を胸に就寝しました。

 

IMG_1600.JPG
2013.11.23 室堂山荘〜一ノ越 2,600m

日の出より快晴。

この景色を見たくて来たのでとても嬉しかったのですが、これからの1日を考えると複雑な気持ちです。
「立山にある山荘の営業最終日、シーズン最初のパウダー、多くの人が来る事が予想される土曜日、ノートラック 」

危険を意識していたとしても、心を揺るがす要素が整っている状況でもありました。

そして予定していた緩斜面へのアプローチの途中で振り返る度に午前中は危険と考えていた斜面にトラックが刻まれてゆきます。

 

IMG_1601.jpg
2013.11.23 強風が続いた証の風紋 2,600m

IMG_1606.JPG
2013.11.23 御山谷 2,450m

IMG_1607.JPG
2013.11.23 一ノ越から見た雪崩の雪煙 2,700m 今回の私達の最高到達点

IMG_1610.JPG
2013.11.23 雄山下部 2,400m 風の影響が少ない斜面の雪質は極上

IMG_1631.JPG
2013.11.23 室堂山荘 2,500m 無事に滑走して山荘まで戻り、初めて *2 デブリの末端を確認

 

私がシーズンの大半を過ごすニセコにおいても、シーズンに何度も「今日はここまでにしよう」と協議する朝があります。
しかし99%は何事も起こらずに、滑りを終える頃には朝感じた感覚は薄れ、また自分達の評価は間違っていたのでは?という考えすら感じる事もあります。

が、しかし、山は怖い。「死ぬかと思った!」という実体験をさせてもらえず、そう感じた時には死んでしまうことが多いのではないでしょうか。 

 

IMG_1645.JPG
2013.11.23 室堂山荘より望む奥大日岳 2,500m

 

立山に来る度に感じる事

水力発電や観光を目的とした開発に寄って交通が整備され、この標高2,500mの場所まで然程の苦労無くたどり着く事が出来ます。
物事には、良い部分と悪い部分が共存すると考えた時に、立山の位置する緯度で森林限界が約2,000mのところ、それを越えたアルパインエリアまで簡単にアクセス出来ることは、日本屈指の国立公園にある素晴らしい山並みや雪景色を多くの方が簡単に目に出来る素晴らしい事であり、滑走者の私にとっては北米でヘリスキーをしている様な錯覚をも感じます。

しかし、ひとたび天候が悪化するとその環境はとても厳しいものです。そして直後の不安定な状況から安定するまでには、標高の低い場所より時間がかかる傾向が考えられます。

 

一部に命を賭すに値すると考え挑む瞬間がある人や、人生を過ごす人がいて、それはきっと価値のある行為であると思います。しかし何かあった場合は家族はどう感じるのでしょうか。

関係ないと考え突き進んだ時期、ガイドとして提供する側となった今、半分は自分に言いたい。
「多くの人において、これは遊びです。」

板と体で類い稀な自然と調和出来るという大人の遊び。これから先も現場に出向き、数多くの葛藤をへて調和した時に沸き上がる感動を1日でも多く体験したいと思います。

そして何よりその感覚を分かち合える仲間と出会い、同志に不測の事故が無い事を祈ります。

 

Keep Snowboarding
高久智基

 

* 写真にある標高は撮影地点の高度です。
*1  細かくは、面発生乾雪表層雪崩と分類されるのでしょうが、本記事では「表層雪崩」と表記しています。
*2 雪崩の流れた跡。 

 

Author: 高久智基

top